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Go Fish


「バージル」
さっさと卓の横を通り過ぎようとしていたのに、まんまとダンテに声を掛けられてしまった。
弟だけならば無視できたのだが、あまり邪険にできない人物も席についている。
彼はしぶしぶ足を止めた。
「何だ」
「お前も遊んでいけよ」
ダンテがわざわざ椅子を引いて席を作った。
ちらりとテーブルの上に視線を走らせれば、トランプが一組置かれてその出番を待っている。
バージルは溜め息を落とした。
「俺は暇では──」
暇ではないと続けようとし、ギリギリで言葉を押し留める。自分より更に忙しい連中がこの場に揃っているのだ。
『忙しい連中』の代表、エプロン姿のキリエがカードの山を手で示した。
「私たち、ダンテさんにトランプを習うところなんです」
彼女の隣のネロが後頭部で手を組む。
「子供達も、そろそろ外で遊べなくなるだろ?だから家ん中でできる新しいゲームか何か、教えてやりたくってさ」
「そこで『Go Fish』だ!」
何故か胸を張って、ダンテがトランプをざあっと掻き集めた。
「忘れたとは言わせねぇぞ」
ニヤリとバージルを流し見る。
バージルは青銀の瞳をすぅっと眇めた。 確かに幼い頃、二人はトランプでさんざん遊んだ。雨の日、雪の日、風が強い日、外で遊ぶには暑すぎる日。母の具合が悪くて、片時もそばを離れたくなかった日。
様々なゲームの中でも、ゴーフィッシュは二人より母を交えて三人で遊ぶ方が断然面白かったから、とりわけ記憶に残っている。ささくれに似た、わずかな胸の痛みを伴ったまま。
「あ、これからどこかへお出掛けですか?」
キリエがバージルのコートに目を留めた。
「お出掛けでしたら、無理には……」
やわらかな言葉尻が、空気に溶けて儚く消える。
ダンテとネロにじぃっと見据えられ──バージルは瞼を閉じて観念した。
「……細かいルールまでは期待するなよ」
もうひと呼吸ついてから、コートを脱いで椅子の背に畳んで掛ける。着席すれば、バージルの気まずさを代弁した咳払いのように椅子が軋んだ。
「俺も適当だって」
ダンテがトランプを五枚ずつ分け、プレイヤーの前に置く。
配られたカードと暢気なディーラーを見比べ、ネロは鼻に皺を寄せた。
「なぁ、子供達に教えてやれるくらいは形になるんだろうな?」
「何とかなるさ。じゃ、今回は俺からな」
ダンテは五枚のカードを眺めてから、バージルをちらと見た。
「バージル。7」
名指しされたバージルは、手札から二枚のカードを抜き取ってダンテに滑らせた。
「いきなり二枚も持ってたのかよ。……とまあ、まずは誰でもいいから指名して、自分が持ってる手札と同じ数字を持ってるか聞くんだ。今回はバージルが7を持ってたからBingoってことでそれを貰って、まだ俺のターンが続く」
ダンテは今度は真向かいのネロを見た。
「7は?」
「いや、ない」
「持ってねぇ場合は、手番のヤツに『Go fish』って言う」
「あ?」
眉を寄せたネロに、バージルがトランプの山を指差した。
「その数字は持っていない、場から1枚カードを引けという指示だ」
「山からカードを取ったら、これで俺のターンは終わり」
ダンテが左に顔を傾けた。
「で、時計回り」
次に出番となったバージルは、正面に視線を上げた。彼の差し向かい、目が合ってしまったキリエがぴくっと肩を揺らす。
「5は?」
静かに問われ、慌ててキリエは手札を検めた。生憎と言うべきか、何度確認しても手持ちの中に求められた数字はない。
「えっと……ゴーフィッシュ?」
軽く頷き、バージルが山から一枚カードを取る。問題なく進んだゲームに、キリエは深々と息をついた。
いよいよキリエの番。と、彼女が口を開く寸前、バージルがコツコツとテーブルを叩いて注目を集めた。
「これで俺の手番も終わったが、それぞれの手札で分かったことは?」
ネロが首を傾げた。
「あんたは5を持ってて、キリエは持ってなかった」
バージルが頷く。
「それから?」
「ダンテが7を三枚持ってる」
「そうだ。そして同じ数字が全てのスート分……四枚揃ったら、『Book』。このブックを多く作った者が、このゲームの勝者となる」
ここまで聞いたところで、
「ダンテさん!」
キリエがにこにことダンテに笑いかけた。
「……ん?」
ダンテは目を上げずに彼女に顔だけ向けた。
「7をください」
明快な指定。ダンテが天を仰ぎ、バージルが誤差の範囲で微笑む。
しぶしぶ差し出されたカード三枚に手持ちを加え、
「揃いました。ブックです」
キリエが高らかに一つめのブックを宣言した。



勝負はキリエとバージルの接戦となっていた。
首位は難しそうだと見て取ると、ダンテはネロに身を乗り出してニィッと笑いかけた。
「不名誉な最下位は夕飯の皿洗いってのはどうだ、坊や?」
ここの皿洗いは大変だ。孤児院の子供たちの食器のみならず、食事の時間にちゃっかり帰って来る大人たちの分までもとなれば、毎回必ずシンクに皿が山と積まれる大仕事。
もちろんネロはいつもキリエを手伝っているのだが、罰ゲームを口実にすれば、今夜の彼女は手を湯水に晒すことなくゆっくり休める。キリエの椅子の背もたれに手を回し、ネロは不敵な笑みで頷いた。
「受けて立ってやるよ」
回された腕のあたたかさに、キリエはそっと微笑した。
彼女自身はバージルと首位争い中ではあるものの、戦う姿勢がそもそも遠慮がち、どちらが勝とうとあまり気にならない。むしろ、この気難しい人物が最後までゲームに付き合ってくれそうな雰囲気の方が、勝利よりもよっぽど貴重な気がするのだ。
と。遠くで電話が鳴った。
四人同時に扉の方を向く。ネロすら反応できない素早さで、キリエがぱっと立ち上がった。
「出ますね。ついでにコーヒーでも淹れて来ます」
身軽な働き者がぱたぱたと扉の向こうに消えると、すぐに電話のコール音が途絶えた。
部屋に残ったのは、耳を澄ませば彼女の話し声さえ聞こえそうなほどの濃い静寂。
手番的にはゲームを進めても問題ないが、誰がどの数字を狙っているかなどの情報が駆け引きに必要であるゆえに、自然とその場は休憩となった。
ダンテが椅子の背にだらりと凭れ、おおきく欠伸をした。
「ふわあぁぁ。……ゴーフィッシュか。俺もリタイアしたら、釣りでもやるかな」
カードを伏せて置き、バージルが鼻白む。
「釣り糸を垂らしたまま寝て、魚がかかっていることに気付かず逃げられる趣味か」
「釣った魚に餌をやらないあんたよりゃマシだろ」
「……どういう意味だ?」
「そういう意味だよ」
世間話はみるみるうちに雲行きが怪しくなってきた。
大人げない男たちを止めるべく、ネロが口を、場合によっては拳を挟もうとした時、
「お待たせしました」
キリエが天の救いのごとく現れた。コーヒーの豊潤な香りが一瞬にして空気を変える。
「電話、何だった?」
いつものように深く彼女に感謝しながら、ネロが甲斐甲斐しくトレイを受け取った。
「ニコがね、今夜はこっちで食べるからって。ハンバーグ食べたいって言ってたわ」
「あいつはガキかよ……ったく」
「ネロ、1」
「ん?ああ」
突如再開されたゲームに、ネロはのんびりとハートのエースをバージルに差し出した。それを受け取り、
「ブック。俺の勝ちだ」
揃ったカードをテーブルに並べて、バージルが立ち上がった。湯気の立ち上るコーヒーに目を留め、形ばかり口をつける。それからコートを羽織ると、ちらとキリエを見た。
「俺は今夜は戻らん」
「あ、はい。お気をつけて」
ネロがわずかに腰を浮かせた。
「どこ行くんだ?」
答えによっては着いて行くぞと言わんばかりの雰囲気。バージルはほんの一瞬だけ、ネロと目を合わせた。

「かつて放流した魚を探しに」

言うなり、濃紺の姿は扉の向こうに消える。
ダンテとネロの息が止まった。
「バージルさん、お魚でも飼うことにしたの?」
キリエだけがのんびりと首を傾げた。
ぱちぱち瞬く彼女に、ネロは呆然と顔を巡らせる。取り戻してまだ数ヶ月しか経っていない右手をそろそろと持ち上げ、口元を覆う。
「?どうしたの、ネロ」
「いや……」
幼いころ諦めた、その存在。うち一人は確かに実在したのだ。その、もう片方。
期待しては、期待させてはいけないと思う。
だが、ネロの身にはここのところ短い間に奇跡が起こりすぎている。感覚が麻痺している。だから、どうしても──
「あいつは俺が見張っておくから」
いつの間にか横に来ていたダンテが、ぽんとネロの肩に手を置いた。暑苦しいウインク付きで。
「あ、ああ」
心ここに在らずのまま、ネロはバージルが綺麗に揃えていったカードを見ていた。



+ + +



個人的にFab Fourといえば、ロイヤルではなくこの四人です!
どこを切り取っても美味しい…。もちろんここにニコちゃんレディさんトリッシュさん、あるいはVくん入れても最高なのですが!もうFab 4っていうかFantastic 8になっちゃうな…

バージルさんは、ネロくんがどうしてキリエちゃんに惹かれたのか理解できて、キリエちゃん経由で巡り巡ってネロくんのこと理解してたらいいな。

5バージルさん、あの名(迷)セリフ「Well, well...」がダンテさんの手前、照れ隠し気味だったらいいなとか!幻想に生きるの楽しいです
いろいろなパターン妄想するけど、どれも美味しすぎるんですよね。素材が最高級ですもんね…帰ってきてくれて本当に良かった…

それでは、拍手をどうもありがとうございました♪


2019.11.24





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