街はうっすらと雪化粧されている。
今年は無事にホワイトクリスマス。
ちらちらと粉砂糖のようにあたたかく降り続ける雪。
通りを歩くこどももおとなも街路樹までも、皆しあわせそうだ。
聖なるかな。
そして──昨年まではイベントごとなど全く関係のなかったこの家にも、今年は賑やかなクリスマスがやってきた。
バージルとが暮らす家。
ピンポーンと元気よくベルを鳴らし、彼は中に飛び込んだ。
「上がるぜー」
出迎えが来るまえに、さっさとリビングにお邪魔し、ゆったりとソファに腰を下ろす。
「本当に来たのか」
来て早々ソファを陣取っている弟に、バージルは渋い顔をした。
「いいだろ。あんたがニューイヤーを日本で過ごす間、また依頼を片付けてやるのはオレなんだから」
文句ないだろうとそっくり返られ、バージルは無言で斜めの席につく。
そうなのだ。今年の年末年始はの実家で過ごすことに決めた。
ダンテの言う通り、その間はまた依頼を代わりに引き受けてもらうことになる。
たまには礼でも言おうかとバージルが口を開いたとき。
「支度できたよー!」
ダイニングからの声がした。
結局、バージルは感謝の意を表せずに終わったのだった。
ぽん。
楽しげな音を立て、ワインのコルクが抜かれる。
「よかったねー、バージル!これ、相当いいワインなんでしょ?」
とくとくと軽やかな水音をさせ、注がれる紅い液体。
日頃の迷惑料、そして本日のお呼ばれ代と称し、ダンテが差し入れたワインだ。
「まあな」
からグラスを受け取り、早速ひとくち含もうとする。
「おっと」
一足先にワインを味わおうとしたバージルに、ダンテがちちちと指を振った。
「こういうときは、乾杯だろ?」
「そうそう!」
も頷き、グラスを目線の高さに持ち上げる。
「それでは……」
「「Merry Christmas!」」
ちん、と澄んだ音が何回か響く。
やれやれと内心は呆れながらも、バージルはとだけグラスを合わせた。
頑張って準備した料理もホールごとのケーキも、三人のお腹を満たすだけでなく、テンションも引き上げていく。
特に一役買っているのは、アルコール。
ダンテのワインはとっくに空になり、今は三本目のテーブルワインがもうじき終わるところだった。
「まだまだあるから、たくさん飲んでね」
ほろ酔いでいい気分のが、新たなボトルをずいっとダンテに差し出す。
「その辺にしておけ」
三人の中ではいちばんテンションの低い、平常とあまり変わっていないバージルが、からボトルを取り上げた。
すかさずダンテが手を伸ばしてそれを取り返す。
「いいじゃねぇか、たまのクリスマスなんだし」
「たまにっていうか、一年に一回だよ」
くすくすとが笑う。
「そうだな。じゃ、なおさらだ」
調子に乗って、ダンテはすぽーんとコルクを抜いた。
(全く……)
バージルは深々と溜め息をつく。
何故ダンテを呼ぶたびに、自分が仲間外れの感覚に悩まされなければいけないのか。
の配偶者はダンテではなく、この自分だというのに!
むっつりと顔を顰めたバージルの目前では、ダンテとがさらに盛り上がっている。
「今からちょっとした芸をお披露目してやるから、そのシャンパン貸してみな!」
「何なに?」
わくわくとがシャンパンを用意した。
ダンテはボトルの底を支えるようにしっかりと持ち、テーブルの上のナイフに目をやる。
「ちゃん、そこのナイフも取ってくれ」
「これ?はい、どうぞ」
ナイフが注意深く柄を向けて渡されるのを見て、バージルの背中に悪い予感が走った。
ダンテが何をするか、分かってしまった。
「ダンテ、お前」
「行くぜ!」
「やめろ!!」
バージルの制止は間一髪、間に合わず。
しゅぱあん!!
小気味いい音と共に、ボトルの口はコルクどころかガラスごと、すっぱりナイフに切り取られた。
「え、えぇっ!!?」
「凄いだろ?」
威張るダンテが捧げ持つボトルからは、シャンパンが床にだくだくと溢れている。
黄金色の飲み物が刻一刻と目減りしていくのに、バージルの堪忍袋の緒がぷつりと切れた。
「酒を粗末にするな!この愚弟が!」
の称賛の眼差しを受けて鼻高々だったダンテは、いい気分をぶち壊されて眉を寄せる。
「なんだよ。せっかくパーティーを盛り上げてやってんのに」
「いらん。それより床を拭け」
「あ、分かったぜ。ちゃんの前でいい格好されて焦ってんだな?」
「……何?」
「だよなー、あんた、宴会芸なんて持ってなさそうだもんな」
悔しいんだな、分かる分かる。酩酊も相まって、ダンテは口調も態度もすっかり喧嘩腰。
一方のバージルとて、いつものように冷笑してやりすごせるほど落ち着いているわけでもなく。
ハラハラと心配そうに、(何故かこちらだけを)見守るの視線を片頬に受け──バージルは芝居がかった仕草で立ち上がる。
ダンテが眉をそびやかした。
「ん?お兄ちゃんも何かやってくれるのか?」
「黙って見ていろ」
芸を披露するなごやかさを一切感じられない低い声でダンテを一喝し、バージルは指をテーブルに滑らせる。
いや、テーブルというよりは、それを包むテーブルクロス。
「あ」
今度はが勘づいた。
「ま、待って!」
けれど制止の声はやはり虚しく、
ばさぁっ!
テーブルの上の皿やカトラリー、バスケットや一輪挿しなどは派手に動くことなく、クロスだけが目にも止まらぬ早さで引き抜かれた。
バージルはマタドールのように気高く背筋を伸ばしてピシッとクロスを払い、どうだとばかりに顎を上げる。
ダンテがぱんぱんと手を叩いた。
「最初っからそれやれよ」
「見せ場は残しておくものだ」
互いに隠し芸を出し合い、妙に得意気になっている双子。
……床にできたシャンパンの水溜まりと、クロスを取り払われて寂しくなったテーブルと。
(ぎりぎりケンカにはならなかったから、よしとしなきゃだめ……?)
一人この場で酔いが醒めただけが、後片付けの苦労をぼんやりと思い描いた。
【fine dine?/end】