ソファの背中にだらりと掛けられていたソレと目が合ったのが、事の発端。
ダンテのベルトを付けて、姿見の前に立つ。
年月を経て鈍く光る真鍮製のバックルに、乱雑な扱いを受けたのか細かい傷だらけの革ベルト。デザインからしてとてもゴツい上、長さも明らかに女にはオーバーサイズ。
辛うじて腰骨に引っ掛けるという、だらしない纏い方しか出来なかったが、今宵のパーティーのために選んだ黒のロングドレスに何故か異様に馴染んで見えた。
ゆったりしているようでいて、がっちり掴まえられている。
「なかなかいいかも」
知らず唇が綻んだ。
その唇も赤に染められているし、足首を返せば覗くお気に入りのレッドソールと相俟って、もはや自分が無敵になった気分。
やっぱり髪もまとめようかと腕を上げたとき、
「ご機嫌だな」
清潔な石鹸の香りの湯気に、鏡が一瞬だけ曇った。
湯気の奥に、湯上がりの腰にタオルを巻いただけ、パーティーの支度はまだまだこれからのダンテが映った。
「やっと上がったの?汗が引かないうちにスーツなんて最悪そう」
むくれて時計を見上げてみせても、むきだしの彼の肌の熱に当てられそうなのはこっちだから困る。
鏡越しに、不意にダンテがにやりと笑んだ。
「俺のベルトがお気に召したようで」
「あ」
妙なところを見られてしまった。
恋人のものを身につけて色めきたつなんて、付き合い始めたばかりのティーンエイジャーみたいだ。自分達はそのどちらでもないというのに。
「……べつに」
気まずいまま、ぷいと顔を逸らす。
口元に笑みを残したまま、ダンテは背後のベッドに目をやった。シーツの上の、所在なさげなチェーンベルト。デコラティブなそれを、彼は人差し指に引っ掛けてみせた。
「こっちは用無しだな?」
シャラッと繊細な音を立てるチェーンは、百貨店で見た時はその輝きに心が踊ったのに、ダンテの手の上に力なく垂れる今、ひどく色褪せてくすんで見える。
「これ、買ったんだろ?せっかくなら使ってやろうぜ」
確かに、今日使わなければもうしばらくは日の目を見ることもなさそうなベルトだ。
「そうだね」
後ろ髪を引かれる思いで、革ベルトに手を掛ける。
と、
「ん?」
バックルに置いた両手に、ダンテがチェーンベルトをくるりと巻いた。
「な、」
何をと問う間もなく、束ねられた手首が頭上に持ち上げられた。
一切の質問に答えたのは、ただダンテのキスと、キスと、キス。
ひたりと頬を伝い落ちる冷たいチェーンとは対照的に、触れてくるダンテのてのひらは熱い。
「……ねえ」
「主役は遅れて行くもんだろ」
「あまりに遅れて、お開きになってないといいけど」
「それならそれでいいさ」
「私はパーティーに行きたかったの!」
「じゃあ、まあ努力する。……努力した方がいいか?」
どうなのだろう。
問われる頃にはルージュも冷めて、思考はぐずぐず蕩けている。

「Buckle up, honey 」

振り落とされんなよ。
宣うダンテに抗う気力はもはやなく、彼の首に両手を預けた。









→ afterword

2021年12月23日より、拍手お礼として置いていた短文です。
ダンテさんのベルトが販売される!と知って、わくわくのまま書きました。
華奢な女性が男性のものを身につけるパターン、大好きです。
特に双子は体格が素晴らしいので!その差がもうね!!

イメージしてたのは5ダンテさんですが、2様パターンも書いたら凄いことになりそう…

それでは、読んでくださってありがとうございました!


2022.3.14